ルーブル美術館特別展「LOUVRE No.9」フランス第九の芸術「漫画」の世界

こんにちは、コジです。名古屋松坂屋美術館で9月3日まで開催していた「ルーブル美術館特別展 No.9」へ行ってきました。

実は私、この展覧会はスルーするつもりだったんですが、幸運にもチケットをいただいたので、見ることができました。

ルーブル美術館は好きなのになぜ見逃す予定だったのかといいますと、ポスターが漫画らしき絵で、しかも明らかに日本の漫画家さんの絵だとわかるものが含まれていたので、意味がよくわからなかったからです。そもそも「No.9」とは何ぞやということで、遠巻きにしておりました。

「No.9」とは?

私、「「ルーブルNo.9」って何よ。「シャネルNo.5」のパロディか?」ぐらいに思っていたわけですが、この展覧会に行ってみて、やっとわかりました。

「No.9」というのは、フランスにはそもそも八つの芸術があるとされているんですが、そこに新たに第九の芸術が登場したという意味なんだそうです。

八つの芸術に関しては諸説あるそうですが、建築、彫刻、絵画、音楽、文学、パフォーミングアーツ、映画、メディアなどに並んで、「バンド・デシネ(BD)」、つまり日本でいうところの「漫画」が九つ目の芸術ジャンルとして認識されているようです。

この展覧会では、フランス語圏の「バンド・デシネ(BD)」と日本の「漫画」の作家たちがルーブル美術館を題材にして描いた作品を中心とした展示が繰り広がっていました。

「バンド・デシネ(BD)」と「漫画」は大きく違う

16人の作家さんの作品を見ることができましたが、フランス語圏の作家たち9名の主にアートとして存在する「バンド・デシネ」に寄せたのか、日本人の作家7名の作品も、コマ割りが少なくて1コマずつ丁寧に描いている感じといいますか、総じてアーティスティックな仕上がりになっていたように思います。

原画はどれも迫力があり、じっくりストーリーを追いたいところなんですが、部分的にしか展示していないので、それは不可能でした。原画の下にはセリフの訳がすべてキャプションに書いてあるんですが、絵と照合するのに時間がかかってしまって、いま一つのめりこめずに進みました。

この展覧会で私が最もおもしろかったのは、「バンド・デシネ」と「漫画」の違いです。

「バンド・デシネ」は版が大きくフルカラーの豪華なものもあるようです。アシスタントを雇わずにゆるやかに執筆し、年に1冊ペースで出す程度。プレゼント用の需要も多いということですから、日本でいう絵本に近い感じなのかも。描くのに時間がかかっているだけに、読むのにも時間がかかるような内容なのかなと思います。

それに対して「漫画」は、基本ハンディサイズで黒白。週刊誌や月刊誌などのために、アシスタントを雇って締め切りに追われながらハードに量産します。もちろん大人も読みますが、対象は主に子供で、自分のお小遣いで気楽に買える値段です。スピード感があって、たとえ複雑な内容でも小学生の子供でもわかるように、細かいコマ送りで描き込んであります。

そういえば、NHKで以前「浦沢直樹の満勉」という番組を放映していて、日本人の漫画家がどのように作品を執筆しているのか、興味深く見ていたのを今思い出しました。あの番組、おもしろかったなぁ。またやってくれないかな。

話がずれましたが、そういったそもそもの違いから、どうもフランス人にとっての「バンド・デシネ」と日本人にとっての「漫画」とでは、存在感が全く違うんじゃないかという感じがしています。ちょっと変な例えですが、「北野武」と「ビートたけし」の関係に似ているような気がするんです。

フランスでは映画が芸術の一ジャンルになっていることもあって、監督「北野武」にすごい称号を与え、高尚な芸術家と捉えるけれども、いくらいい映画を撮ろうが、やはり日本人にとっては「ビートたけし」の印象が強い。彼はずっとコメディアンの「ビートたけし」なんです。どんなにすばらしい映画を撮ろうが、その結果としてVIP扱いされようが、あくまでも以前と同じスタンスで行動するのが彼の格好いいところだと思います。

「バンド・デシネ」は芸術を好む人々のもので、その美しさに価値があり、「漫画」は一般大衆のもので、どこまでもエンターテインメントが中心である。たとえ同じハイクオリティなものでも、それに意味づけをして鑑賞するか、ややこしい蘊蓄なしに楽しむか、そんな違いがあるんじゃないかという感想を持ちました。

フランス語圏の「バンド・デシネ」作品、とても美しかったので、ぜひ改めて何冊か購入してじっくり読んでみたいと思っているところです。

ルーブル美術館の懐の深さ

この展覧会では、ところどころに設置された映像も大変おもしろいものでした。

最初の導入映像から始まり、各作家のインタビュー、ルーブル美術館の紹介などがあったんですが、何はともあれ驚いたのは、ルーブル美術館さんの太っ腹です。

美術館として開館してからだけでも200年以上という長い歴史を持ち、世界でも知らない人はいないであろうルーブル美術館が、こういうプロジェクトを立ち上げて漫画へ扉を開き、ルーブルが選んだ作家たちに白紙委任でルーブル美術館を表現する作品の制作を依頼しているというのは、すごいことです。しかも、その作家たちに惜しみなく協力している姿に感動しました。

2016年7月に東京で始まったこの展覧会は、その後、大阪、福岡へと巡回し、最後の名古屋で2017年9月に終了ということで、1年かけて日本を回ったようです。最後の最後で見ることができてよかったと思います。

若かりし日にフランスへ旅行し、観光地の一つというような感覚でふらっと行ったルーブル美術館。当時は全くアートの知識などありませんでしたが、その存在の大きさと、古いものと新しいものとの融合に驚いたことを覚えています。あんな宮殿のようなところの真ん中にガラスのピラミッドをつくるなんて、想像を超えていました。

ルーブルは、あれからずっと変わらず新しいものへと進化し続けています。チャレンジによるたゆまぬ成長の上に、美術館としての人気も保たれているのでしょうね。伝統を守るだけでなく、どんどん斬新なものを取り入れていくあの姿勢は、どこから生まれるんでしょう。それがフランス人の気質であるのなら、例えばフランス革命あたりから来ているんでしょうかね。あのときは結果的に古いものを叩きのめしてしまったので、また話が別なのかな。

ルーブル美術館、いつかまたじっくり数日かけて行きたい場所です。

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