名都美術館「志村ふくみ展 -いのちの色に導かれ-」から伝わってくる意志の強さ

こんにちは、コジです。名都美術館というのは愛知県長久手市にある一般財団法人林美術財団の美術館ですが、その開館30周年記念の特別展として開かれた「志村ふくみ展」へ行ってきました。

アクセス方法についてはこちらの記事に少し書きましたので、御参考までに。

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志村ふくみさんとは

志村ふくみさんは1924年のお生まれで、糸を自然の素材だけで染め、機で反物に織り、着物をつくってこられた方です。

また、随筆も多く書かれています。私はその中の一冊を読んで、彼女の染織に対する思いや、どう取り組んできたのかを知り、かねてから作品をぜひ見てみたいと思っていました。

1924年生まれということは大正13年ですから、うちの祖母より1歳上に当たります。当時、女性が自分のやりたいことをやることは、本当に難しかったことと思います。

祖母も、我が家にお嫁に来るとき、結婚してからも小さなころからずっと習っていて免状も取れていたお琴を続け、ゆくゆくはお琴の師匠をさせてもらえると確約したはずが、あっという間に反故にされたと言っていました。夫や姑にどれほどぞんざいに扱われても、それが普通だったから黙って我慢したという話でした。

ふくみさんは、一時は結婚し、子供を二人産んだものの、その後、離婚して夫の実家に子供をあずけ、染織の世界に入って頭角をあらわされたとのこと。文章にすればさらっと書けてしまうのですが、今とは全く違う環境の中でその道を突き進むことができたのは、本当に強い意志があったからなのだろうと思います。

今回の会場は、彼女の作品が展示される中、ところどころに配されたキャプションにより、彼女が生まれてからこれまでに至る人生をたどりつつ、どのような思いで作品をつくってこられたのかが伝わってくる展示になっていました。

紬(つむぎ)の着物

志村さんは紬(つむぎ)織重要無形文化財保持者(人間国宝)ということもあって、展示されているのも当然ながらすべて紬でした。

紬というのは、生糸を引き出せないような品質が落ちる繭をつぶして真綿にし、そこから手で撚って糸にして、それを織って反物にしていきます。色合いは渋いものが多く、柄も限られていますとても丈夫なので、昔は普段着や野良着にされていたそうです。

ところが今は、手間がかかるためか、大変高価です。年配の貫禄あるおばさま方がさらっと外出着にして、趣味のよさと裕福さをアピールする感じになっています。人間国宝の志村さんの紬なんてことになると、すごい金額なのではないかと想像できます。

そんな紬ですが、今回の展示を見て、というのは日本人の「」に対する思い入れの強さを感じさせるアイテムの一つなんだなと再確認しました。

例えば抹茶茶碗でもそうですが、何というほどのこともないと思わせるようなもの欠けているもの崩れているもの混ざり物があるものを慈しみ、大切に使うといったところがありますよね。紬も、一見地味に思えるんですが、それを着る人が今まで生きてきた深みがあってこそ、本来の意味で素敵に着こなせるんじゃないかという気がします。

やはり若造が着るにはハードルが高い。祖母はよく似合いましたが、少なくとも私はまだうまく着られる気がしません。

機を織るという作業

さらに、作品を見ていると、その作品名からインスパイアされる部分があるとしても、色の微妙なハーモニーが波動を発しているような、ある種の奇跡を見ているような、何だか不思議な気持ちになってくるんですよね。

志村さんの紬というのは、草木染めだからなのか、糸の太さが均等でないからなのか、同じ色でも微妙に深みが違うというか、光の吸収の仕方が違うというか、まさに一様でない自然の姿がそこにそのまま映っているかのようです。

糸を自然の草木で染め、それを機で根気よく丁寧に織るというのは、志村さんがいつかインタビューの場で言っておられたように、「祈り」に大変近い作業なのかもしれません。

お経を唱えたり、座禅を組んだり、雅楽を演奏したり、神楽を歌ったり舞ったり、写経をしたり、もっと言えば、料理をしたり、掃除をしたり、花を生けたり、走ったり、何かそういう一定の型にはまることを丹念に繰り返し、我が消えてきて、ひたすら何か大きなものにすべてを託して作業をしている状態に入ると、結果として美しいものを生み出せたり、何らかの奇跡を体現したりできるんじゃないかという気がします。

志村さんはそういう境地に至っているから人の心を動かす着物をつくることができるのだろうと思います。

いつだったか、伊勢参りに凝っていたころ、その一環で松阪市にある天照大神の衣をつくる機殿神社(はたどのじんじゃ)に行ったことがありました。

細かいことはすっかり忘れてしまいましたが、ひたすら田畑が続く中、こんもりと鎮守の森があり、その森に囲まれた境内には白い石が敷かれ、本殿とは別に大きな社があって、その中で潔斎した女性が機を織ったのだというような話を聞きました。

境内の中は時間の流れ方が違うみたいにとにかく静かで、機織りも神事なんだな、私もちょっとやりたいなと思った記憶があります。これはまだ実現していませんが(笑)。

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念願の志村ふくみさんの展覧会、行けてよかったです。意志が強く、情熱があり、大らかで明るい、そんなお人柄が伝わってくるような素敵な展示でした。

しかも、愛知県陶磁美術館で展覧会を見た直後だったので、相互割引で観覧料が2割引き! ラッキー! 愛知県陶磁美術館の「染付展」もすごく素敵でしたよ。

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